最高裁判所第三小法廷 昭和39年(オ)147号 判決 1966年7月26日
上告人(原告・被控訴人) 山田忠夫
被上告人(被告・控訴人)
山梨県信用組合
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人青柳孝、同青柳孝夫の上告理由第一点について。
所論は、上告人が本件土地を担保に供することに同意した旨の認定をとらえ、該認定に関する原審の専権行使を非難するものであるが、原判決挙示の証拠によれば、右認定は首肯できるから、原判決には所論の違法はない。
同第二点の(一)、(二)について。
原判決挙示の証拠およびこれによって認めた判示事実関係のもとにおいては、上告人が古屋武夫に対し、主債権者宮沢文武、連帯保証人古屋武夫、根抵当権設定者上告人とする債権極度額一〇〇万円の根抵当権付手形取引契約締結の代理権を授与したことを認めることができる旨の原判決の認定は首肯でき、原判決の認定説示する「もっとも、被控訴人が宮沢が主債務者となることを承諾していたと認める証拠はないが、被控訴人は古屋木工の資金の融通を受けるについて担保提供を承認していたのであるから、前認定の事情で主債務者を宮沢としても、その承諾の趣旨に反するものではないと解すべきである。また、被控訴人が、連帯保証人となることについても承諾していたと認むべき証拠はないが、前認定のとおり根抵当権設定契約がその代理人古屋武夫により適法になされている限り、右契約及びこれに基づいてなされた本件登記の効力に影響を及ぼすものではない(原判決五枚目表一一行目から同裏八行目まで)。」は、これと矛盾するものではない。従って、原判決には所論の違法はない。
同第二点の(三)について。
原判決は、前記のとおり、古屋武夫が上告人から授与された代理権に基づき本件根抵当権付手形取引契約を締結したと認定したうえ、本件根抵当権設定登記は有効であると判断したのであるから、右代理権については、民法一一〇条の表見代理の成否を判断する必要はない。叙上と見解を異にし、原判決の審理不尽をいう所論は採用すべき限りでない。
同第三点について。
不動産登記法四四条にいわゆる「登記済証カ滅失シタルトキ」とは、登記済証が物質的に消滅したか又は紛失のため一時所在が判明しないような場合をいうのであって、登記済証が登記義務者によって現に所持されている場合に、同法三五条により提出すべき登記済証に代えて同法四四条所定の保証書を添付してなした登記申請は違法のものといわなければならないが、いったん保証書による登記済証が受理されて登記がなされた以上は、それが実体的権利関係に合致する限り、登記申請の形式的瑕疵は治療されて、その登記は有効となると解するのが相当である(最高裁昭和二九年(オ)第二七七号、同三一年七月一七日第三小法廷判決、民集一〇巻七号八五六頁参照)。本件において、根抵当権設定登記の申請が、登記済証が上告人の現に所持するところであるのにこれが滅失したとして、登記済証に代えて保証書を提出してなされたものであるとしても、すでに申請が受理されて登記がなされ、しかもその登記が実体的権利関係に合致することは原判決の認定するところにより明らかであるから、登記申請の形式的瑕疵にかかわらず右登記は有効となるものと解する。原判決は、叙上と理路を異にするが、本件登記を有効とした窮極の判断は正当であり、所論は採用できない。
(裁判長裁判官 下村三郎 裁判官 五鬼上堅磐 裁判官 柏原語六 裁判官 田中二郎)
上告代理人青柳孝、同青柳孝夫の上告理由<省略>